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●ヨハン・ハールト家
ヴィットリッヒ駅で降りた東洋人は私達のみ。なので、すぐに「佐野さんですか?」と声を掛けられました。ハールト家のご主人Gerdさんと、弟さんのNorbeltさんでした。Gerdさんは静かな印象のある方。快活な印象のNorbeltさんはトリアー大学の地学の先生で英語も堪能。お兄さんに代わって、多くの説明をして下さいました。お迎えのヴァンに乗って、まずはピースポーター・ゴルドトレプヒェンの畑へ。日本ではトレプヒェンと書きますが、実際のドイツ人の発音は「トレプシェン」の方が近いです。これに限らず、実際の発音と私がカタカナで覚えている畑名が
違うので、何回か言ってもらわないとわからない時もありました。基本的なことから説明すると、「ピースポーター・ゴルドトレプヒェン」というのは、「ピースポート村のゴルドトレプヒェン畑で採れた葡萄を使ったワイン」ということ。同じ畑を複数の蔵元がもっているので、同じ名前のワインであっても誰が作ったかということが重要です。ヨハン・ハールト家はこの畑の最大の所有者で、今やピースポートのトップクラスの生産者と言えます。
ハールト家は650年以上に渡りこの地域で葡萄栽培に携わっている記録が残っています。ワイナリーは当主ゲルドさんのおじいさんが創立しました。所有畑は6ヘクタール。うち4ヘクタールがリースリングです。生産量の半分が国内、残り半分がアメリカと日本に輸出されます。現在ドイツでは食事に合せやすい半辛口〜辛口のワインが人気ですが、日本やアメリカでは依然「ほのかに甘いリースリング」が期待されるとのことで、生産量の70%は甘口です。
ゴルドトレプヒェンの畑の話に戻りましょう。山の中腹に車を止めると、やはり想像以上の急斜面。この急斜面が、太陽の光を最大限に受け止めるのです。北国ドイツ・モーゼルでは、畑の向きや積算温度のわずかな違いが、他の産地以上にワイン作りに影響してくるのが良く解ります。眼下には大きく蛇行するモーゼル川と対岸の平地(トレプヒェンの畑がある)が広がり素晴らしい眺めです。「トレプヒェンとゴルドトレプヒェンの差が解りました」と言うと、お二人とも大きく頷いていました。
光合成をより促すため葉を多く茂らせているとのこと。葡萄の実はまだまだ小さく直径5〜6ミリという感じです。1週間ほど前に花が終わったとのことで葡萄の実を取り囲むように、おしべのように見える水分を失った小さな小さな花がまだ残っているところもあります。モーゼル川流域では、粘岩板質(見た目には石がちな硬い土質)の上に、シーファーと呼ばれるスレート状の黒くて何層もある平たい石がたくさん覆っている土壌。、このシーファーが、昼の間の温かさを夜も維持し、また雨が降った場合もしっかりと水を蓄えるのだそうです。成育期間中の潅漑は、ワイン法で禁止されています。
畑見学が終わると、今度はワイナリーへ。立派な石造りのワイナリー(兼住居)の中は、ひんやりとししています。建物の1階がワイン販売所、その奥が薄暗いセラーになっています。使い込まれた真っ黒な樽(フーダーと呼ばれるモーゼル地方伝統の1000リットル樽)が並んでいます。ドイツのワインは基本的には樽の影響を受けないように作られます。なので、樽は何十年にも渡って使われます。このときは既に2000年ヴィンテージはボトリングされていたので、樽の中には収縮を防ぐための水が入っていました。また、様々な大きさのステンレスタンクがあり、収穫量やクラスによって使い分けます。他にはフィルターや圧搾機などがありましたが、思ったより機械は少なかったです。
次は、ピースポート村にある、ローマ時代のワイン醸造所を見学。(2〜3世紀のものと推測されている)このあたりではローマ時代からワイン作りが行われていたのです。遺跡はきちんと復元されており、一番上の破砕槽で葡萄を足で踏みつぶします。葡萄ジュースは槽の穴から次の槽に流れ落ちます。踏みつぶされた葡萄は圧縮機(機というほどのものでもないですが)に入れて更にしぼられ、さきほどのジュースと混ぜ合わせ、醸造。この時代の人々は、ワインを温めて、またはちみつや様々な草をつけ込んで飲んでいたらしいです。年に1回、この遺跡でお祭りが開かれ、実際にここで足ふみでこんなワインを再現するそうです。「おいしい?」と訪ねたら「No」ですって。(笑)
ところで、このピースポートの辺りのモーゼル川流域の村では、洪水の被害を何度も受けています。モーゼル川の源はフランスのアルザス地方。ドイツの気候だけでなく、フランスの気候の変化の被害も被ってしまいます。昔は小学校だったという建物の壁には、私の背の2倍ほどの高さの所にまで洪水時の水位の線が書かれていました。大変な所だ・・。
さて、いよいよヨハン・ハールト家のワインの試飲。お部屋は落ちついた雰囲気で、真っ白なテーブルクロスの上にはトレプヒェン ゴルドトレプヒェンの2000ヴィンテージQbAからカビネット、シュペトレーゼ、アウスレーゼとずらり。ゲルドさんが1本1本開けてくれます。どのワインにも共通するこの生産者独特の香りがあります。酵母について聞くと「培養酵母を使っている。純粋酵母も良いが、思い通りにならないことも多い。培養酵母を使うと独特の花のような香りになり、うちの蔵ではその香りも大切にしているので」とのこと。
どのワインもさすがに若く、ぴちぴちした炭酸が感じられ、とてもクリーンな印象。そして確かに、白い花を連想させるような柔らかな香りに溢れています。特に私は「ゴルドトロプヒェンQbA」「ゴルドトロプヒェン・カビネット」に、「多くの人が求めるモーゼルの清涼感」を多いに感じました。
試飲が終わって奥様の手料理ランチをご馳走になりました。ホワイトアスパラガスのスープ、ツナクリームとパイ、デザートは旬の苺を使った一品です。苺のピューレの美味しかったこと!盛りつけにもセンスが感じられ、まるでレストランのようでした。
少しくつろいだ時間にタイミング良く、次の訪問先である「シュロス・リーザー」のトーマス・ハーグ氏がお迎えに来てくれました。お礼とお別れを言い、ヨハン・ハールト家を後にしました。

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